研究分野および主要研究テーマ
Research Area
シグナル伝達物質としての役割を担う脂質を「脂質メディエーター」と呼びます。川崎医大 薬理学教室では脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸 (LPA)、スフィンゴシン1-リン酸 (S1P)、N-アシルエタノールアミン (NAE)の生合成・分解経路や受容体を中心とした研究を進めています。これらの脂質メディエーターは、細胞の機能(サイトカイン産生、細胞老化、ストレス応答 etc.)や様々な疾患(線維症、がん、糖尿病、脂質代謝異常症、神経因性疼痛、乾癬、脂肪肝、精神疾患、変形性関節症、網膜色素変性症、騒音性難聴、ライソゾーム病 etc.)との関連が示唆されています。
1)疾患の発症・進展における脂質メディエーターの役割
LPAやS1Pなどのリゾリン脂質メディエーターは、体内で膜のリン脂質から合成される細胞間の情報伝達物質で、主として、Gタンパク質共役型受容体のリガンドとして作用します。肺線維症モデルや担癌モデル動物等を作成して、疾患の発症・進展における脂質メディエーターの役割を検討しています。将来的には、分子レベルから個体レベルまでの脂質メディエーターの生理・病態生理機能を明らかにし、脂質分子による新しい生体調節機構の解明と確立を目指しています。
2)脂質メディエーターの代謝に関わる酵素群の機能解析
LPAやNAEは様々な生物活性を持つ脂質メディエーターで、体内でリン脂質から生合成され、役割を終えた後に分解されます。これらの反応を担う酵素群は脂質メディエーターの体内レベルの制御に深く関与しますが、その全容は不明です。当該酵素群の阻害薬や活性調節薬を、炎症・疼痛・肥満などの領域における新規薬物として応用することを目指し、本酵素群の機能解析を進めています。
3)細胞老化制御による加齢関連疾患の発症機序の解明
老化細胞は不可逆的に細胞分裂を停止した状態で体内に比較的長く存在する細胞で、糖尿病・神経変性疾患・がんなどの多くの加齢性疾患の発症や病態悪化に関与することが強く示唆されています。
特発性肺線維症でも老化細胞が多く観察されていることから、現在、遺伝子改変マウスに肺線維症モデルを適用し、老化細胞の病態生理学的役割について解析を進めています。将来的には、老化細胞を標的とした肺線維症治療法の開発や生活習慣病などの他の加齢関連疾患への展開を目指しています。
4)小胞体ストレス応答に関連する因子の探索と機能解明
細胞のタンパク質合成の場である小胞体の環境が乱れたり、折り畳み不全タンパク質が蓄積したりすると、小胞体ストレスが惹起されます。細胞は小胞体ストレスを解消するために、小胞体ストレス応答 (UPR)と呼ばれる適応機構を活性化させます。UPRの破綻や異常活性化は糖尿病・神経変性疾患・がんなどの様々な疾患の発症に寄与することが知られており、創薬標的としても注目されています。現在、ゲノム編集やケミカルバイオロジー的手法などを駆使し、UPR関連タンパク質の機能や脂質メディエーターとの関連についての解析を進めています。